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2023/11/25

特別講演(2) ベトナム人実習生孤立死産事件の主任弁護士、石黒大貴さん

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日本は単純労働力を外国から受け入れていないために技能実習生という制度を取っている。2017年からの間で、妊娠した結果実習が継続できなくなったのが1434人、その後復帰できた人が23人。異様な低率。じっさいには帰国させる、解雇する、中絶を強制する、というのが横行している。
入管からすら何度も注意喚起が出ている。ベトナムからの実習生はほぼ100%、入国の時点で「妊娠してはならない」という約束をさせられている。この結果孤立出産(医療的サポートなしに自力で出産する)に陥ってしまう。その結果死体遺棄罪などに問われる事象が頻出している。
2022年6月末時点で296万人、うち熊本県は18807人。ベトナムが1位。熊本県の外国人労働者のうち54%が技能実習生。熊本では「使いませんか?」テレビCMまで打たれている。技能実習生は労働契約の形態だが、監理団体(受け入れ企業の連合体)が出身国の送り出し団体から実習生を受け入れて実習させる。
送り出し団体、監理団体、実習団体、それらを統括する技能実習機構が絡んでいる。実習は最長5年までしか在留資格が出ない。また他の労働在留資格では認められている「家族と住める」が無い。その後特別技能の選考に通っても5年間は家族と住めない。これが孤立出産の原因に端的になっている。
2020年12月、ベトナム人女性、リンさんがが実習先で妊娠を云えずに孤立出産し、死産となった。遺体を弔いの紙とともに箱に入れておいたことが、死体の放置または隠匿にあたるとして死体遺棄罪で起訴され、1・2審で有罪となり最高裁で逆転無罪となった。
死体遺棄罪で「守るべきもの」は何か?(殺人罪なら人の命) これは「死者に対する一般的宗教的感情」とされている。被害者が個別具体に居るわけではない。リンさんがやったことは当日の遺体をきれいなタオルで包み、紙に「賢い子」と書き、子に「ごめんなさい」と手紙を書いて段ボール箱に入れた。
段ボール箱にテープで蓋をして棚の上に置いた。翌日病院に行き死産が確認された。接見した弁護士にリンさんは「よくわからない犯罪で逮捕されて何がなんだかわからない」とした。当初は、これなら執行猶予だからと「罪」を認めて開放させる方針だったが、外国人にはめったに認められない保釈が通り、
リンさんが「闘う」と決意し、石黒弁護士が主任に。誰でも、外国の地で死産した当日に「何をしたらよいか」など考えられるわけがない。リンさんの行為はその中で最大限の弔いの意志をした結果で、それが罪に問われてしまった。
よねざわいずみ
年収の5倍を送り出し団体に支払って日本に来て、日本語もあまりしゃべれず頼れるところがない。妊娠したことに気づいた監理団体や受け入れ団体は「これで調べろ」と妊娠検査薬を渡すこともある。日本人に対して決してやらないことが行われている。
「日本での妊娠」というサイトを有志が各国語で作っていて、これは広めてほしい。
https://ninshinjapan.weebly.com
送り出し団体もかなりひどい場合がある。「妊娠するな」など。
いっぽうで、同種の死体遺棄罪に問われるケースは、国内でたくさん起こっている。実名報道されて社会的に排除されるケースも出ている。母親が病院に相談し、保護が必要と病院が警察に連絡したら、それで母親が逮捕される。ひどい。
捜査機関の中に、何も考えずに罪に問うという流れができてしまっているのではないか?
一審は執行猶予付き有罪。「これは遺体を最終的に捨てるつもりだったのだろう」とされてしまった。ヤフコメでは「実習に来たんだから妊娠したなら帰れ」が溢れかえった。「ニッポン複雑紀行」が深く書いてくれて状況が変わってきた。
二審も同じ量刑。死体を放置したという一審の判断を否定したが、テープで段ボール箱に蓋をしたことが有罪とされた。死体を隠すことは有罪だが葬祭の行為の一環であれば例外的に無罪となる。今回は葬祭の行為ではないから死体遺棄である、とされた。
そんな二分は成り立つのだろうか? 遺体を前に動転して慌ててやったことは葬祭の行為ではないとされるのか? またそもそも個人の葬祭の行為を裁判所が判定することは信教の自由に反しないか?
二審を受けてリンさんは「裁判官が孤立出産のことを考えてくれれば結果は変わるのではないか?」と記者会見で訴えた。先輩弁護士から「これ最高裁で行けるのでは?」と連絡があり、上告しようとなった。
上告審ではこうのとりのゆりかごの医師が意見書を出した。「この高裁の判断は、孤立出産に陥ることが犯罪だと言っているに等しい」と。世論とメディアの戦略を考えた。東京での裁判なので東京の団体の力量も使わせてもらった。
孤立出産.jp https://xn--79q52u8svpff.jp/ を立ち上げてそこで意見書を公募した。コインハイブ事件で最高裁で勝った弁護士の発案で、3桁の賛同が集まった。すべてを提出した。
最高裁で今年3月に無罪判決。「葬祭の行為の対象かどうかだけ判断するのは考慮不足、その行為が明らかに葬祭ではないという場合に限って考慮すべき」とのこと。つまり「あいまいな場合は遺棄にあたらない」という判例になった。
権利を知り声をあげる当事者が出てきた。介護の実習のフィリピン女性が日本で子を出産し、正当な権利として産休を求め里帰りを希望したが拒絶された。監理団体から「あなたの妊娠を望まない人もいる、それを受け入れるのが実習生である」と英語で通達された。
近年、やっと国も、妊娠時のフローチャートを作ったりし出した。さらに実習制度の見直しの中で多少の考慮は入った。しかしまだまだ不十分、運用を監視していかないといけない。

まとめ:そもそも技能実習生は妊娠や出産を「しない」前提で設計されている。技能実習という仕組みの問題。そして孤立出産当事者に対して日本社会が「厳しい目線」を向けている問題。そもそも「母」になりたい人が誰でも「母」になれないという現実。選択肢を女性に認めるということ。

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